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上蒲刈海道Ⅱ

恋ヶ浜から県民の浜までをあるき、古代の製塩技術を考える

西泊公園に別れを告げ、山道をくだってゆくと日本渚百選に選ばれる恋ヶ浜というまことに情緒ある名前の浜にたどりつく。この恋ヶ浜は、白い渚と青い松につつまれるキャンプ場として美しく整備されている。夏場は当然のように賑わうが、魚釣りのスポットとしても有名であることから、年間を通じて、各地から訪れる釣り人たちで賑わう。

恋ヶ浜から黒鼻という岬にむかってあるいてゆくと間もなく、日本の渚百選に選ばれているばかりでなく、日本の海水浴場五十五選に選ばれる見事な白浜の海水浴場である県民の浜がある。夏休みともなると、美しい砂浜と透明度の高い海水を求める海水浴客が日本全国から集まり、大変な賑わいをみせる。

また、県民の浜海水浴場周辺には、リゾートホテル輝きの館やコテージかまがりといった宿泊施設から温泉施設、プール、テニスコート、芝生グランド、体育館、イベントホール、海と島の工作展示館、広島県で最大級のマクストフ望遠鏡を備える天体観測館などがあり、一大リゾート拠点の様相を呈している。

この県民の浜は、昭和五十九年(1948年)に造成されたものであるが、この造成工事中に古墳時代の製塩土器が発見されている。この製塩土器の発見に伴い、その製塩方法が研究されることとなったが、十年以上の歳月をかけてようやく藻塩の製法が確立された。

これは、海水に浸したホンダワラ(海藻)を乾燥させ、再度海水に浸して乾燥させるといった工程を繰り返して塩分濃度を高めたかん水をつくり、土器で煮詰めて塩を採るというものである。この古代土器製塩方法は考古学会からも認められ、全国からの注目を集めた。

県民の浜に隣接して、製塩遺跡の復元模型や製塩土器などが展示されている古代製塩遺跡復元展示館や古代の塩づくりを実体験できる海人の館がある。ここで販売されている「海人の藻塩」はまことに旨い。普通の塩と異なり、海藻の色彩である茶褐色を帯びており、白身魚や貝、蛸、イカの刺身、天 ぷらなどにそのままつけて食しても旨く、冷奴などに醤油のかわりに使用してもまことに美味である。

海人の藻塩には、通常の藻塩のほかに柚子塩、抹茶塩、ハーブ塩、胡麻塩、胡椒塩がある。いずれの塩もまことに美味であるばかりでなく、遥か千五百年以上の昔よりこの地域に暮らしてきた私たちの先人たちが生き抜くために考案した製法に基づいてつくられる塩であることから、悠久の歴史という ものを食感を通じて感じることができるのである。古代の製塩方法そのものに対する研究を重ね、実体験できる施設を整備して次世代に伝えていこうとする意識の大切さをあらためて認識することができた。